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【追悼】クルト・マズア氏(後篇)

〔In memory of Kurt Masur 2〕

Kurt Masur-bk4(C)Akira KINOSHITA
< Kurt Masur : 1983年10月27日撮影 昭和女子大学人見記念講堂>

前回に続き、逝去されたクルト・マズア氏を追悼します。
前回は、氏の堂々たる指揮姿の写真を掲載しましたが、
今回はプライベートショットも交えて、木之下晃が遺した文章共に掲載します。

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(前篇より続く)
 私は巨匠が75年にライプティヒ・ゲヴァンドハウス管弦楽団を率いて来日した折に、始めてカメラを向けた。以来、来日の都度撮影を続け、幾度か自宅にも招かれて家族と共に巨匠を写している。

 マズアを語る時、重要な節目の一つに、夫人であるヴィオラ奏者で歌手の櫻井偕子さんとの出会いがある。彼女は立教大学に進学するも学生運動の波に揉まれ、72年、4年生で中退。新天地を求め、母の友人を頼って片道切符で単身ブラジルに渡り、リオデジャネイロのブラジル交響楽団でヴィオラを弾いていた。それから2年後の74年4月のこと。巨匠がそのオーケストラに客演した折のリハーサルの休憩時間に、偕子さんが「ドイツへ行きたいと思っているのですが、スカラシップはどうしたらもらえますか?」と巨匠の楽屋へ聞きに行った。彼女を見た巨匠は、その時、偕子さんに一目惚れをした。

Kurt Masur-bk2(C)Akira KINOSHITA
<1983年11月4日撮影 東京文化会館楽屋 偕子夫人と共に>

 巨匠はその2年前に2度目の結婚をした前妻を交通事故で亡くし、もう二度と結婚しないと心に決めていたものの、その演奏会の後で偕子さんをディナーに誘い「先日の話だけど、私は東側から来ているので西側のスカラシップの手伝いはできないが、ライプティヒにも素晴らしい音楽学校があるから、そこなら手助けできますよ」とワインを飲みながら「ライプティヒに来る気はありませんか?」と遠回しにプロポーズした。しかし、突然な申し出は彼女にその真意が伝わらなかった。そこで巨匠は帰国を1日延ばて、再度求婚。その後手紙のやりとりがあって約1年後の75年7月15日、ライプティヒのザイフェン教会で結婚式を挙げた。偕子さんは24歳だった。
 
Kurt Masur-bk3(C)Akira KINOSHITA
<1985年11月25日都内にて撮影 マズアファミリー>

 二人の間にはデイビッド・謙君という子息がいる。(前妻との間には4人。)彼はコロンビア大学を卒業して、ドイツのデトモルトでバリトン歌手として学んだ。実は指揮の才能もあって、巨匠は「両方やっても相当なレベルまでいける」と彼の将来を信じている。

Kurt Masur-bk1(C)Akira KINOSHITA
<2001年10月18日撮影 マズアファミリー サントリーホール楽屋にて>

 マズアは、独・英・伊・露・仏語を話し、寝言はドイツ語。夢はオールカラーで見るという。文学青年だったそうで、フランス文学、ロシア文学に傾倒、特にロマン・ロラン、ビクトル・ユゴー、ドストエフスキー、プーシキンを愛読する。思い出の映画は15~16歳頃に見た、ロベルト・シューマンの人生を描いたマティアス・ヴィックマン主演の「トロイ・メライ」で、そこに出演していた女優のヒルデ・クラールは多感な青年の心に焼き付いて、永遠のファンになったという。嫌いな食べ物はドジョウ。夫人が浅草の駒形どぜうへ柳川鍋を食べに連れて行ったら「ギャッ」と叫んで店の外へ飛び出してしまったとのことだ。
 2006年12月に偕子夫人ゆかりの立教大学は巨匠に名誉博士号を授与した。(text by Akira KINOSHITA)

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木之下晃がこの文章を書いたのがいつなのかが、明確にはわからないのですが、
現在ケン・マズア氏は、指揮者として各国のオケからの客演をこなしつつ、
今年1月にはアシスタントコンダクターを務めるボストン交響楽団でimpressiveなデビューを飾ったと、
ご自身のホームページに記述がありますね。
1985年に撮影した写真では巨匠の膝にチョコンと坐っていたケン君が世界に羽ばたいていることを
巨匠と共に木之下も喜んでいることでしょう。

最後に、木之下のライフワークでもあったポートレイトシリーズ『石を聞く肖像』からの1枚を。

Kurt Masur-ishi-blog(C)Akira KINOSHITA

頭の頂きが薄くなってきたので、「髪がはえますように」と願ってのポーズとのこと!
素晴らしいユーモアをお持ちの方でもいらっしゃいました。

心よりご冥福をお祈りいたします。

木之下晃アーカイヴス






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